乳母車を引く、老婆。
闇の中から現れた。
ゴロゴロと近づいて来る。
あれ?さっきのばぁさんか?
ゴロゴロと音もなく近づいて来る。
あの乳母車は、やっぱりさっきのばぁさんだ。
「やっぱり、ここにおったな。」
「さっき会ったばかりじゃないですか。忘れ物ですか?」
「そうか...まだ気付いておらんようじゃな...。」
「へ?なにが?ですか?」
「あんたに会ったのは一年以上前じゃ。わしは、ずっと気袋を集めては捌いておった。」
「一年?ですか?わたしはそんなに長くここに居ませんよ。まだ眠ってもいないのに。」
「ふむ。わしが悪かった。時間なんて有って無いようなモンじゃからな。気にせんで良い。それより、あんたの気に引き合いがあってな。報告に来たんじゃよ。」
「わたしの気、がですか....」
「そうじゃ。この中を覗いて見れ。あんたには判るじゃろ。」
「ひとつだけ、光ってます。」
「それを手に取りなされ。“ギフト”じゃよ。」
「ギフト?」
「その気の光は、あんただけに見える。わしには見えん。」
わたしは両手でその気袋を取り出した。
全身に温もりが流れた。
わたしは涙した。
涙が止まらない。
何故、自分が泣いているかもわからない。
自分を自分でどうすることもできない。
わたしの中で誰かが泣いている。
不快な涙ではない。
それを止めてはいけない。
涙が枯れるまで泣き切ろう。
泣かせてあげよう、と思った。
真夜中の公園は相変わらずベンチが点滅している。いくつかの灯りが消え、いくつかの灯りが点く。ベンチに座る人、ベンチを立ち去る人。そんな光景が遠く彼方にまで繰り広げられています。わたしのベンチもまた、彼方からは点滅するベンチのひとつとして映るのでしょう。
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