「よろしいかな?」
「え?いつから其処に?」
「私はずっと此処に居ました。あなたにとっては、“今から”になるでしょう。」
「は?からかっているのですか?」
「いえいえ、ご気分を害されたらごめんなさい。」
白髭はつづけた。
五感で感知できる範囲はたかが知れています。
狭い世界を生きているもんです。
五感では感知できない世界が存在します。
それは存在しないに等しい、かもしれません。
それでも、
感知できない世界の存在からなんらかの影響を受けています。
あるいは、
感知できない世界へなんらかの影響を及ぼしています。
それは計算できないし予測もできません。
確かめるすべもありません。
感知できないのですから。
ただ、脳には感覚的にそれを想像すること、
あるいは察知する能力が備わっています。
それは感知できる範囲で表わすことができるものではありません。
言葉でもないし、絵でもないし、造形物でもない。
そのいずれでもない感覚は単なる波のようなものでしょう。
常に振動していて留まることはありません。
カタチとして捕まえることはできないモノです。
そんな存在が在るということ、
そんな世界の中に我々が居るということ、
それを知ることが、
今在る自身を受け留めることにつながっていくのです。
真夜中の公園は相変わらずベンチが点滅している。いくつかの灯りが消え、いくつかの灯りが点く。ベンチに座る人、ベンチを立ち去る人。そんな光景が遠く彼方にまで繰り広げられています。わたしのベンチもまた、彼方からは点滅するベンチのひとつとして映るのでしょう。
そして、白髭は消えた。
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