ひとつの灯りが立ち去った。
真夜中の公園は相変わらずベンチが点滅している。いくつかの灯りが消え、いくつかの灯りが点く。ベンチに座る人、ベンチを立ち去る人。そんな光景が遠く彼方にまで繰り広げられています。わたしのベンチもまた、彼方からは点滅するベンチのひとつとして映るのでしょう。
立ち去った灯りが座っていたベンチの端を見ると、暗がりの中に小さな塊がある。手に取ってみると、石ころだった。
いつからあるのだろう....。
公園の石がベンチの上に置かれている。
いや、公園の石とは限らないのかもしれない。
あの灯りの忘れものだろうか...。
それは今、わたしの掌にある。
石ころは、片手で握ると手の中に隠れてしまうほどの大きさだ。表面はなめらかで丸みを帯びている。最初はひんやりと冷たさがあったが、握っているうちに温もりが出てきた。
わたしの体温が移っていったのだろう。不思議なものだ。冷たい石がわたしとの接触で温もりを帯びてくる。
わたしは冷たくはならない。
わたしはわたしの中で発熱している。
一定の温度を保つように発熱している。
石ころは発熱しない。
周りの熱を吸収する。
周りが冷たければ石ころも冷たくなる。
周りが熱ければ石ころも熱くなる。
石ころは一定の硬さを保っている。
周りと衝突すれば、
周りが柔らかければ周りが崩れる。
周りが硬ければ石ころが崩れる。
石ころは自ら動くことはできない。
置かれる環境からの影響で石ころは姿を変えて来たのだろう。
岩が砕けて石ころになっていく。
水に流されて丸みを帯びていく。
削られた粒は砂になっていく。
はて、はじめの大きな岩はどのようにして作られるものなのか....。
そんな繰り返しが石ころにはあったのだろう。
わたしは石ころの過去を知らない。
ただ、今は石ころがわたしの掌に収まっている。
開いては握り、握っては開く。
わたしはそうやって石ころの感触を確かめている。
わたしの石ころよ。
自分では動くこともできず、周りからの影響を受けながら姿を変えてきた。
すべてを受け入れ、すべてを受け止めてきた。
今在る石ころは、わたしの手の中に。
さて、どうしたものか。
何も語らず、ただ在る石ころ。
石ころは美しい。
ただ在る、それだけで美しい。
わたしには石ころをつくることはできない。
唯一無二の石ころだ。
わたしは石ころが在ることに感謝する。
ありがとう。
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